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エンプロイーサクセスとは?メリット・デメリット、実現の方法を詳しく解説

エンプロイーサクセスとは?メリット・デメリット、実現の方法を詳しく解説

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更新日|2023年12月21日
所長|いくた
この記事の概要

働き方改革や労働環境の多様性が浸透しつつある中、エンプロイーサクセスの重要性が増していることをご存じでしょうか。こちらでは、エンプロイーサクセスとは何か、注目される背景や導入することによるメリット・デメリット、実施方法、具体的な成功事例などについてご紹介していきます。労働改革の後押しとして参考にしてください。

目次

エンプロイーサクセスとは?

ニッコリのブロック

エンプロイーサクセス(Employee Success)とは、直訳すると従業員の成功という意味です。従業員が職場で成功すること、そのための取り組みなどを指しており、結果的に企業全体の成功に貢献することも目指しています。

とはいえ、単に出世や報酬のアップ、スキルアップ等のキャリアでの成功を目標としているわけではなく、従業員が目指す生き方や社会でのあり方を尊重して、その実現のために企業が協力するという内容になっています。つまり、仕事において地位の向上を目指すだけでなく、多様な生き方や働き方を受け入れた上で行う広義なキャリアデザインともいえるでしょう。

顧客に積極的に働きかけて、顧客の成功体験を実現し、継続的な購買を促すカスタマーサクセスとは対をなす概念です。

エンプロイーサクセスが注目を集める背景

オフィスビル

なぜ、エンプロイーサクセスが注目を集めるようになったのでしょうか。以下に、その背景について見ていきましょう。

労働人口の減少による人材不足

日本に限らず、多くの先進国では、高齢化による労働人口の減少が課題となっています。これに伴い、企業は優秀な人材を確保することが難しくなっており、若年層や専門スキルを持つ人材の希少性は今後さらに高まっていくと考えられます。

その結果、従業員が企業を選ぶ傾向が強くなり、企業は従業員にとって魅力的な職場環境やキャリアパスを提供しなければ、採用や長期雇用が難しくなっていくでしょう。

このような状況下で、優秀な人材の獲得や長期的な保持に有効な手段として、エンプロイーサクセスが注目されています。社内での地位向上だけでなく、従業員個人の目標や夢の実現に向けて協力し、実現しやすい環境を提供することで、企業への忠誠心や共感、結びつきをより強くすることが期待されています。

働き方改革の推進

近年、労働環境の改善と従業員のワークライフバランスの向上が重視されており、多くの国で働き方改革が推進されています。日本でも「働き方改革」が国家レベルで取り組まれ、長時間労働の是正、フレキシブルな働き方の促進、テレワークの普及などが推進されています。

このような動きは、従業員が仕事と私生活の両立を図りやすくし、ストレスを減らすことによって全体的な幸福を向上させることを目指しています。エンプロイーサクセスは、従業員一人ひとりのニーズや目標に合わせて柔軟な働き方やキャリア開発を支援することにより、働き方改革の理念に沿った取り組みとして重要性を増しています。

エンプロイーサクセスを導入するメリット

メリット

エンプロイーサクセスを導入することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。代表的なものを以下にご紹介していきます。

従業員満足度が向上する

従業員の職場に対する満足度は、離職率や作業効率に大きく影響します。働いていても達成感がほとんどない企業では、従業員のやる気も失われて作業効率が下がったりミスが増えたりしがちですし、職場への忠誠心が薄れて離職率も高まるでしょう。

エンプロイーサクセスを実施することにより、従業員のキャリア目標や個人的な願望が実現する可能性が高まるため、自分の仕事や職場に対してポジティブな気持ちを持つようになり、職場への満足度、忠誠心が高まります。

その結果、モチベーションの向上やストレスの軽減、職場での幸福感の増加などが期待でき、結果的に集中力アップによる作業効率、生産性の向上へとつながるでしょう。

採用力が強化され、採用コストを削減できる

優秀な人材の採用は、企業の成長に欠かせない課題です。しかし売り手市場となっている状況では、企業の魅力を高めなければ他社に後れを取ることにもなりかねません。

エンプロイーサクセスを実施して従業員の成功体験や満足度を高めれば、企業の魅力としてアピールできるようになります。求職者は、給与や勤務時間などの雇用条件だけでなく、働き方や職場文化、社内の人間関係などの情報も重視する傾向があります。

自社の魅力として従業員の希望に合わせた働き方を提供していることをアピールして採用力を強化し、さらに現在の従業員や取引先が自社を積極的に推薦するリファラル採用が促進されることで、採用プロセスの効率化やコスト削減も可能になるでしょう。

定着率が上がり、離職率が低下する

優秀な人材を獲得できたとしても、キャリアアップや待遇アップのために他社へ転職する可能性は捨てきれません。離職率が高い企業は、育成した人材をどんどん失うことになりますので、コストに見合うだけの収益が期待できなくなるでしょう。

エンプロイーサクセスを実施することで、従業員は職場での成功やキャリア成長を実感しやすくなります。また、従業員のキャリア目標と企業目標が一致することで、企業は従業員が望むサポートを行い、従業員は企業に対して恩義を感じて強い忠誠心を持ち、組織に深く根付くようになります。その結果、優秀な人材の定着率が上がり、離職率を低下させることが期待できるでしょう。

業績が向上する

従業員のモチベーションは集中力にもつながるため、モチベーションが高い状態を維持できれば、業務の効率性やクオリティが向上します。

そのためには、従業員が自らの役割に価値を見出し、誇りをもって積極的に業務に取り組めるような環境づくりをしなければなりません。

多くの従業員が高い満足度とモチベーションをもって積極的に業務に取り組むようになれば、結果として企業全体の生産性が高まります。また、やる気のある従業員が多い環境では、新しいアイデアやイノベーションが生まれやすくなり、企業の業績向上にも貢献するでしょう。企業の成果や利益の向上につながるという点からも、エンプロイーサクセスは注目されています。

エンプロイーサクセスを導入するデメリット

デメリット

一方で、エンプロイーサクセスを導入することで生じるデメリットもあります。どのようなものがあるのか、見ていきましょう。

コストがかかる

エンプロイーサクセスのプログラムを導入するときには、従業員に対応する窓口や部署の開設、新しいプログラムの開発、従業員のトレーニングなどの初期コストが発生します。

加えて、継続的なサポートや評価システムの設計・運用などを行いますし、プログラムの実施や改善でリソースが必要になるなど、時間や長期的なコストも必要です。

対象となる従業員が多い大規模な企業ではまとまったコストが発生しますし、中小企業や資源に限りがある企業にとっては、大きな負担となり得る点は考慮しておきましょう。

従業員間の不平等感

エンプロイーサクセスは、それぞれ目標や希望が異なる従業員に対し、個々に柔軟な対応をしなければなりません。しかし、企業側からはサポートしやすい内容もあれば、サポートが難しい内容もあり、すべての要望に応えられない可能性があります。

全従業員に公平な対応がされなかった場合、従業員間で不平等感や不公平感が生じ、社内で対立関係が発生したり、職場内が緊張したりする恐れがあります。従業員が平等に満足できるよう、バランスを考慮してサポートをするようにしましょう。

企業文化との不整合

企業によっては、上層部が従業員を率いるトップダウン手法の企業や短期的な業績を重視する企業などもあります。エンプロイーサクセスは従業員個々の意見を重視し、それぞれの成功を支援するために長期的なサポートを行うプログラムですので、これらの企業文化や価値観とは馴染まない可能性があります。

エンプロイーサクセスの目標と既存の企業文化、価値観が整合しない場合、上層部から理解を得られなかったり、従業員が正直に目標を伝えられなかったりして、通常よりも導入が困難になるでしょう。

期待と現実のギャップ

エンプロイーサクセスは従業員のキャリアや個人的な目標の実現をサポートするものです。しかし、従業員の中には現実的でない目標を掲げていたり、企業が提供できる支援の範囲やリソースの限界を超えているなど、対応しづらいキャリアプランを持っていたりする人もいるでしょう。

エンプロイーサクセスを実施したとしても、すべての従業員の願望に完全に応えることは不可能です。しかし、期待していた内容と現実のギャップを感じて、従業員が失望や不満を抱く可能性があるでしょう。従業員に対応可能なサポート内容を提示して、条件をすり合わせていくなどの努力が必要です。

エンプロイーサクセスを実現させる方法

女性社員

エンプロイーサクセスを実現させるには、どのような手順が必要なのでしょうか。以下に、3つのステップをそれぞれ詳しくご紹介していきます。

ステップ1 会社のビジョンを明確化する

まず、会社のビジョンを明確にしなければなりません。何を目的とする組織なのか、どんな目標や価値観を持っているのか、社会に対してどのような役割を果たすべきで、そのためにどんな組織であるべきかなど、明確に定義しましょう。

ビジョンを明確にすることで、従業員も企業が示す大局的な目標に、自分のスキルや知識を活かしてどのように貢献できるのかが明らかになります。

その結果、従業員の行動や目標を企業の方向性と一致させやすくなり、従業員が目指すべきキャリアパスや自分が従事している仕事に対する意味、目的などを見出せるようになるでしょう。


企業としても、自社が求める人物像の定義や評価設計が進めやすくなるというメリットがあります。

ステップ2 従業員のなりたい姿を把握する

会社のビジョンが明確になったら、次は従業員のなりたい姿を把握する必要があります。

従業員は全員が一律の目標を持っているわけではなく、一人ひとりのキャリア目標や個人的な目標、価値観などを異にしています。そのため、キャリア面談やアンケート、定期的なフィードバックのセッションなどを通じて、その時点で従業員が自分のキャリアで何を成し遂げたいのか、プライベートではどのような生活を送りたいのかを把握しなければなりません。

従業員の目標をしっかり理解することで、その目標達成を企業としてどのように支援するのか、具体的な計画が立てられるようになります。きめ細やかな聞き取りで従業員の願望を把握し、サポートすることで、従業員のモチベーションやエンゲージメントも高まるでしょう。

ステップ3 会社と従業員の将来像をまとめる

企業のビジョンと従業員の目標が定まったら、これらを統合して共通の将来像を作成しましょう。

企業はあくまでも自社の目的を達成するために従業員を尊重するのであり、従業員の言いなりになるわけではありません。従業員のキャリアパスが企業の目標にどのように貢献できるのか、企業は従業員の個人的な成長や目標達成をどのようにサポートできるのか、しっかり検討する必要があります。

従業員と企業、双方の視点から目標を調和させることにより、互いに成功を目指して責任を持ち、より強い協力関係が構築できます。例えば、従業員が目指す目標に合った役割や役職を与えたり、チームのメンバーや仕事の範囲を変更したりすることで、従業員は企業への忠誠心や仕事へのモチベーションが高まり、企業に今まで以上に貢献するでしょう。

このように、同じ方向の目的を持つことで、従業員の個人的な成長と企業の成長が互いにサポートし合える環境を作り出します。

エンプロイーサクセスの成功事例

ケース

実際にエンプロイーサクセスを導入して、成功した企業はいくつもあります。以下に、いくつかの成功事例を見ていきましょう。

スターバックス

スターバックスでは、企業価値の向上や社会への貢献を実現するため、長期的な計画を立てています。その一環として、従業員に対して大学の学費支給を負担するプログラムを提供しているほか、アリゾナ州立大学と提携して、80以上の授業についてオンライン受講をサポートするなど、25億ドルという巨額の投資を行って、若い学生をターゲットにした取り組みを積極的に進めています。

また、日本では通信教育の補助や従業員のスキル開発支援を行うプログラムなどを充実させ、従業員の能力を伸ばしながら企業に対する満足度、エンゲージメントを高めることに成功しています。

freee

会計や給料計算ソフトなど、中小企業のバックオフィスを効率化するクラウドサービスを開発・運営するfreeeは、企業全体でエンプロイーサクセスの推進に取り組んでいます。

新たな組織カルチャーづくりを目指す総務人事部門を「メンバーサクセスチーム」として立ち上げ、積極的にテクノロジーを活用してシステム管理やルーティン業務の効率化を進め、工数や紙の書類を大幅に削減しました。

そして、育児支援制度の設立や企業文化の浸透、外部の勉強会への参加などの施策を行い、従業員の負担改善や成長を支援しています。

また、毎週上司と面談し、個人の働き方や配属先について相談する「weekly 1on1」、ペットボトルやポスターに価値基準を書いてお互いの意見を出し合う「価値基準1on1」など、独自の施策でも価値基準の浸透を図っています。

アドビ

PhotoshopやIllustratorなど、世界的に広く利用されているソフトウェアの開発や関連サービスの提供をしているAdobeは、10日間の出産有給休暇や産後26週間の有休制度などを新たに設立し、休暇制度を改善しました。

また、家族にとって重要なイベントがある場合には休みを取りやすい環境を整えているため、ワークライフバランスを重視した働き方が可能です。

休暇以外にも、年次や性別によって生じる給与格差を見直したり、部下の成長度合いをチェックして、継続的にキャリアアップをサポートしていくチェックイン制度を取り入れたりと、従業員の意欲を高めるような取り組みを多く行っています。

エンプロイーサクセス実現のポイント

チェック

エンプロイーサクセスを自社で実現するためには、マニュアル通りではなく要所を押さえつつ自社や従業員に合わせた導入が重要です。以下に、どのようなポイントを押さえて導入を進めるべきなのか、見ていきましょう。

ポイント1 個々の従業員のニーズと目標の理解

エンプロイーサクセスを実現するには、従業員一人ひとりのキャリア目標や個人的な願望、価値観を正確に深く理解することが重要です。

企業が行うサポートは、従業員のニーズに基づいて提供することになりますので、画一的なものではなく個々の従業員に合わせたアプローチをしなければなりません。

従業員のニーズを正確に把握することで、それぞれのエンゲージメントとサポートへの満足度を高めつつ、長期的な成功に貢献できるでしょう。

ポイント2 企業文化と戦略の整合性

エンプロイーサクセスの取り組みは、企業の文化や戦略と一致している必要があります。従業員の目標と企業戦略に相違があれば、適切なサポートや企業への貢献の実現は困難になるでしょう。

企業のビジョンやミッション、価値観が従業員の目標と整合する環境を作ることで、従業員は自分が行っている業務が企業の大きな目標に貢献していることを矛盾なく理解でき、自分の道を信じてより一層モチベーションを持って取り組めるようになります。

ポイント3 継続的なコミュニケーションとフィードバック

従業員は自分がスキルや知識、経験を身につけたことで、目標や考え方に変化が生じることがあります。従って、エンプロイーサクセスを維持するためには定期的なコミュニケーションとフィードバックの機会を設けることが必要不可欠です。

従業員との一対一のミーティングを行ったり、パフォーマンスレビューのチェックやキャリア開発について会話をしたりして、従業員の進捗状況を継続的に確認し、その都度現状に必要なサポートを提供しましょう。

これにより、従業員が自分の成長や企業からの手厚いサポートを実感し、企業に対する責任感や忠誠心を強化することができます。

エンプロイーサクセスに必要なスキルとは

社員たち

エンプロイーサクセスの実現には、大きく分けて3つのスキルが必要です。現在の従業員の能力や目指す業務に合わせて施策を実施しましょう。

まず、人間関係を良好に保つために、傾聴力や発信力、プレゼンテーション能力、リーダーシップなどのヒューマンスキルは欠かせません。営業等で取引先とコミュニケーションを取ることが多い人、社内調整役やリーダーとして多くの人と連携を取る必要がある人などには必須のスキルといえます。

また、どのような職種でも、専門知識や技術的な能力が必要な職種であればテクニカルスキルが必要です。事務職ならばパソコン操作や資料作成能力、接客業ではサービス説明能力や観察力、ビジネスマナーなど、部署や業務に合わせたスキルを磨いていきましょう。

管理職や経営者層には、多角的な視野や論理的思考、応用力、先見性などのコンセプチュアルスキルも欠かせません。経営課題や業務効率化などの大きな問題に対し、豊富な知識や情報から本質を把握して適切な対処が取れるようになるため、組織の能力を最大限に発揮できます。

エンプロイーサクセスとエンプロイーエクスペリエンスは違う?

ハテナマーク

エンプロイーサクセスと似た言葉にエンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience)があります。両者は異なる概念ではあるものの、密接に関連しています。

まず、エンプロイーサクセスは従業員が自身のキャリアと個人的な目標において成功を収められるように、企業がサポートする取り組みです。具体的には、キャリア成長の機会を与えたり、適切な報酬や仕事と私生活のバランスがとれる働き方を検討したりして、職場での充実感や満足度が得られるような環境を提供します。

一方、エンプロイーエクスペリエンスは従業員が職場で経験する一連の出来事や感情、環境に焦点を当てた概念です。例えば、入社から退職までの従業員の経験全般や職場環境、企業文化、日々の業務、人間関係、ワーフライクバランスなどについて、従業員が職場でどのように感じ、行動するかという経験価値を示しています。従って、エンプロイーエクスペリエンスは、エンプロイーサクセスを実現するための取り組みの一つともいえます。

エンプロイーサクセスは従業員の個性や自社に合わせた取り組みが重要

労働力の減少や働き方改革への取り組みが進んでいる中で、エンプロイーサクセスの導入は企業にとって無視できない課題の一つです。

マニュアル通りにシステムを導入すればよいというものではなく、長い目で一人ひとりの従業員の成長を見守る必要があるため、自社に合った方法で取り組むことが重要です。社風や職場環境を考慮して、企業にも従業員にも無理のないペースで計画を立てていくようにしましょう。

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